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長い夜

先日、とある町で祭り的なものがやっていたので、のぞいてみた。
祭りといっても、神輿や山車なんかが出るものではなく、ただ夜店が出ているだけのものだった。

しかし、その賑わいぶりはすごい。

毎度、その町のボウリング場の賑わいぶりには驚かされていたが、この祭りの賑わいぶりはそれの比ではなかった。

その町の市民全員集合。
間違いない。
今ここにテポドン的な何かが落ちれば、明日からはその町からの税金は皆無になることだろう。テポドン的な何かが落ちないように、市は厳重に注意する必要があるといえる。しかしテポドン的な何かが落ちたら、、いやテポドン的な何かの話しはまぁいいや。

とにかくすごい混雑なのだ。
さらにその混雑に反して、夜店の数が明らかに少ない。というか、たぶん夜店の数が少ないから、混雑になっているのだが、そのせいで、どの店にも若干の行列が出来ているのである。

昔は、食い物のために行列するのは、絶対に嫌だった。
食い物のために行列していいのは、蟻さんだけだと思っていたのだが、最近は少しは並ぶようになった。

なぜならやはりそういう店は、うまいからだ。

まずい飯を食うぐらいなら、少々我慢してもうまいものを食べる。
そういう生き方にシフトしていく、三十路前なのだ。

そして案外行列も並んでみればすぐに進む。
最近学んだ物理の法則だ。たぶん最初に発見したのはアインシュタインかなんかだと思う。以外に早いのだ行列。

そんなわけで、私はある行列に並んだ。
広島焼きである。
なんだかわからないが広島焼きが食べたくなったので、ならんだのだが、ここの行列が異様に、長い。
数で言うと、50人ほどの列だ。他のどの店よりも並んでいた。

しかしあの物理の法則を知っている私に迷いはなかった。
まぁせいぜい、15~20分というところだろう。そしてこんなに並んでいるという事はさぞかし美味しいのだろう。
私は、その行列に加わった。


・・・・

・・・・進まない。


一向に進もうとしない行列。
5分経とうと10分経とうと進まない。進むのが遅いのではない。1ミリも進まないのだ。

私の後ろにいるフィリピン系のお姉さん(お姉さんというかおばさんだが)などは広島焼きを初めて食べるらしく、謎の食物「HIROSHIMAYAKI」に混乱し始めたようで、
しきりに
「オコノミヤキト、チガウノ?オコノミヤキト、チガウノ?」と連呼している。
たぶんHIROSHIMAYAKIは、とんでもなく手間のかかる料理なのだと思ったはずだ。

30分ほど経つと、行列はいきなり、ぐぐっと進んだ。
たぶん沢山の量が同時に出来上がるのだろう。一気に10組ほどの人が広島焼きを手にした。
しかし、10組では半分も前にいけない。そしてそこからまたぴたりと動かなくなるのである。

正直、本当に広島焼きを食べたいのであろうか。

そんなリアルな、問いが頭をかすめる。しかし今さら抜けられない。今この行列を抜けたら、一体何のために今までここに並んでいたのだろか。
もはや、自分は広島焼きを手にしない限り、前に進めないのである。そしてその広島焼きを手にするための行列が前に進まないという、エッシャー的スパイラル。恐ろしい。

そんなことを思っていると、行列の脇にある焼き鳥屋のオヤジがなにやら怒り出した。

「もうちょっと、離れてくんない?客がこねーよ」

たしかに。
たしかにその焼き鳥屋は、広島焼き屋の行列のせいで、やっているのかやってないのかさえわからないような状況になっていた。
オヤジの言うとおり、これじゃ客は入らない。
しかし、離れるといっても、せいぜい30cmくらいなもんで、それ以上は通りの人の混雑ぶりもあり、ムリがある。

そんなわけで、イライラとだけする、店のオヤジ。

そして、店のオヤジは暴言を吐いた。

暴言の相手は、行列を生んでいる張本人の広島焼き屋のオヤジに対してだったが、その矛先は、焼き鳥屋の前にできた行列の10人ほどの女性達に対して向けられた。

「おい!○○ちゃん!(広島焼きの主人の名前)行列そっちにまわしてくれよ!!店の前がブスばっかりでかなわねーよ!!」

固まる女子達。
正直私も固まった。
あまりにもバッサリと首を切られすぎて、絶命した事に気付かない、B級ホラー映画の脇役のように、誰もがそのブスという言葉の意味を、見失い、唖然とした。

が、じわじわと来る、その言葉の破壊力。

と同時にこみ上げる、表情に出してはいけない笑い。
しかし強いぞ女子!
次の瞬間、全員が、互いの顔をさっと見て、「うん、私のことではない」と納得し前を向いた。

前向きに生きるというのはああいうことを言うのだろうか。
そうだ!ブスなんて一人もいなかったぞ!たぶんね。たぶんだけどね。

ただ、ごめんなさい。どう考えても焼き鳥屋が悪いんだけど、焼き鳥屋の意見が、すごく好きだ!!
なんか知らないけどすっきりしたぞ!!


で、で、気づけば1時間ほど経とうとしているのである。
後ろのフィリピンさんは、もう発狂寸前だ。
もはや彼女の中で広島焼きは、食べ物の領域を超え、ちょっとした人工知能などを搭載しているとか、浮いたりするんだろうなぁとかいうクラスにまでなっていることだろう。

そして誰しもが、もしかしてこの行列は広島焼き屋ではなく、広島に続いているのではなかろうか思い始めたころ、やっと広島焼き屋の店内が見える位置にまでやってきた。

そこで目にした、信じられない光景。
見た瞬間、息を呑んだ。


店員の手際が異常に悪い。


ドキリとした。
シンプル且つ大胆な、裏切り。
店員が少ないとか、鉄板が小さいとかそういうことではない。

店員の動きが遅い。
そう、それだけ。

たぶん、20キロくらいのベストを服の中に着ているんだろう。そんで、きっとお腹とかも痛いに違いない。
でなきゃ、報われないこの行列。

そして、ふつふつと湧き上がる、ある一つの予感。

もしかしてあんまり美味くないのでは・・・

だって、この行列、奴の手際の悪さだけのために出来上がっていること間違いなしなのである。
遅いから、行列が出来る。その行列を見て、味に期待し並ぶ。

加えてあの手際の悪さだ。美味いわけがない。

後ろのフィリピンさんもついにブチ切れている。
「アイツオソインダヨ!!アイツナンナンダヨ!!ヤルキアルノカヨ!ヒロシマヤキッテナンナンダヨ!!」

ごめんねフィリさん。
初めて食べる広島焼き。本当はもっと手際もいいだろうし、味だってたぶん、本当はもっとうまいはずなんだよ。
人工知能も搭載してないし、浮くこともないけど、広島焼きを嫌いにならないでね。

フィリさん。

そして日本、いや広島を嫌いにならないでね。



待つ事1時間30分。

やっと手にした広島焼き。

一口食べてみる。


・・・笑いが出た。



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室木おすし

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